真夏の暑い日、「HANA NO OTO」を目指して歩いた。
入谷駅から根岸3丁目交差点、金杉通り、HANA NO OTOというルートだったが、古くも見ごたえのある建物に出会い、その都度足を止めながら、根岸柳通り交差点にたどり着いた。
東京都台東区根岸4-1-30
閉店
ひときわ趣深い建物の並ぶ一画で、特に私を釘付けにしたのが、シャッターのおりた電機店。
なんとも珍しい乾電池の自動販売機!
すでに現役は退いたようで、中は空だった。今、乾電池はコンビニで買えるものね。
この交差点の斜め向かいに位置するのが、目的の喫茶店だった。
外観からすでにモダンな空気が漂う。植物から突き出たメニューには、パスタ、ガレット等女子向けなオシャレ系メニューが並び、カフェなの?と少しガッカリするが、それはまったくの杞憂だった。
紛れもなく喫茶店。
創業は1967年。50年近くなるが、照明を抑えた仄暗い中でも、椅子や壁は光沢を放ち、多くの純喫茶が持つ、古臭さ・汚さとは無縁の空間。
カウンターと客席を仕切る金属格子のパーテーションにセンスあり。
入口には振り子時計、窓のレースカーテンからちらりと見える緑、外を歩く人、車。
アンティークとモダンが融合し、茶系だがありきたりでない、オシャレ茶系。
BGMはイージーリスニング。
若いお客が目立ったが、この静けさが発酵した空間では、カップルも静かに会話。
いちごとブルーベリーのケーキ。
生のいちごとブルーベリーがたっぷり乗って、その下の酸味のムースとチョコレートのスポンジが生々しくて、とても美味しい。セットでアイスコーヒーを。
甘み、酸味、苦味がすとんと落ちた。
接客はママさんが対応、カウンターにはベレー帽をかぶったマスター。オシャレな雰囲気の夫婦だった。
奥行きがかなりあり、想像よりも広い店内だったが、帰り際にお手洗いを借りた際、更にその奥に少し小高い隠れ家めいたスペースを見付け、痺れた。
嗚呼、次来たときはここに座りたい、と思った。
店を出た後鶯谷に向かったのだが、途中、「花」という喫茶店を見付ける。すでに閉店しているのだろうか。「マンション建設反対」の張り紙が目に付いた。
(訪問:2015年7月25日)
*
つい先日こちら方面に行かれた読者の方から、閉店の貼り紙を見たと連絡があった。
調べてみると、昨年末に閉店したそうで、こちらの家具を販売されている方のブログを発見した。
というか、これは「喫茶店のマッチ」さんでは……?(^^;
私が訪れたのは閉店の5か月前。その時点でも家具の状態は大変良かったので、新天地でも長く活躍されることでしょう。
(撮影:2016年5月)
エムケイ
ブログを通して多くの方に純喫茶の魅力を伝えていきたいと思っています。
当ブログはリンクフリーです。トップページ、個別ページでもご自由に。
コメント
散人
ワタシにはかなわなかった店内の風景とオーナーご夫婦のご様子など、
エムケイさんのいつものごとく愛情あふれる文章にしみじみしました。
純喫茶の儚さをおもい、あの閉店のメッセージに思いをはせるのでした。
什器類がまたきらめく時を願っています。
2016/03/20 URL 編集
エムケイ
書くために、消えつつある記憶を手繰り寄せたのですが、決して美化するわけではなくて、とても素晴らしいお店でした。
>什器類がまたきらめく時を願っています。
そうですね。私もそう思います。
2016/03/24 URL 編集
喫茶店のマッチ改め村田商會
ご紹介いただきまして誠にありがとうございます。
人生いろいろありまして閉店した喫茶店の家具を扱う村田商會を立ち上げました。ご紹介の通り、花の音さんの椅子やテーブルを扱いさせていただいております。
今後ともよろしくお願いいたします!
2016/05/08 URL 編集
エムケイ
閉店した喫茶店の家具の販売をなさってるのを知り、妙に納得するものもありました。
大変意義のあるお仕事です。
陰ながら応援させていただきます。
コメントをいただいたおかげで、サイトで琥珀さんの家具を扱ってるのを知りましたよ。
勢いでブログをUPしてしまいました。
2016/05/10 URL 編集
CS
花の音を取り上げて下さり、
ありがとうございます。
私は30年ほど前にアルバイト
していました。
一度は辞めたのですが、また
戻りたくなり、トータル4年ほど
勤めていました。
今日、ふと思いだして検索して
みたら、閉店している。とのこと。
先代マスターとママはご存命でしょうか?
マスターの長男さんが昼間、次男さんが
夜を担当していて、家族ぐるみのおつきあい
をさせていただいていました。
店内の様子が30年前から全く変わって
おらず、先代ママが丁寧に手入れを
していた姿を思いだし、胸が熱くなり
ました。
2016/05/15 URL 編集
エムケイ
閉店後になりますが、ここは書いておきたいと思いました。
これまでに訪れた純喫茶では、昔は夜遅くまで営業し(時には深夜まで)、開店と同時にお客さんが続々と入店、外まで行列したなどという、今では到底見られない純喫茶黄金期のお話を訊きます。
こちらもそうだったんでしょうね。
店内の様子が30年前と変わらないというのに、何か胸が熱くなるものがあります。
大事に手入れされてたんでしょうね。
私が訪問したのは、昨年7月。
マスターもママさんもお元気そうでした。
ご存命だとは思いますが……。
閉店の経緯は分かりませんが、残念ですね。
2016/05/18 URL 編集
エムケイ
先代のマスターとママさんのことでしたね。
私がお会いしたのは、年齢的に考えても、2代目のご長男あるいは次男の方のご夫妻だったと思います。
2016/05/23 URL 編集
CS
そうです、先代ご夫婦です。
ご存命だと90歳前後になられます。
それにしても・・・
ほかの記事も見せていただきましたが、
いしはらや古城等々懐かしく、感動しました。
日曜日の朝はよく父に連れられて、今は無き白鳥や
古城へ(ここはまだあるのですね)モーニングを食べに
行ったものです。
最近行ったお店もたくさん書かれており、エムケイさん
の喫茶店好きに感心すると共に、自分も好きだと気付き
ました。
これからも読ませていただきます。
ありがとうございました。
2016/05/28 URL 編集
エムケイ
私が訪問したときは、2代目ご夫婦だけが店内におりました。
今はどうされてるんでしょうね。
2016/05/30 URL 編集