西荻窪といえば、まさに純喫茶天国。店ごとに個性の異なる味わい深い喫茶店が点在しており、その日の気分次第で好きな店を選べる。
今回ご案内するのは、西荻窪の中でも一際ひっそりと佇み、地元民でさえも存在は知りつつ、入るのを躊躇させるほど、とにかくひっそりしている「珈琲 プロティア」。
東京都杉並区西荻南2丁目25
※閉店
ここは東京の純喫茶に関してはもはや私はこの人にひれ伏すしかないというほど、完璧なデータベースを有する純喫茶女子にお勧めされた。
ただ、正確な住所は不明。分かるのはタイ料理「ぷあん」の向かいにあるということだけ。
そう聞き、場所だけ確認しようと夜に一度下見に行ったことがあるが、それらしき店は見つからなかった。
「もしかして、ドアにLOVEって書いてある店?(そういう店があった)」
「LOVE……? とにかくぷあんの前。営業時間外はすっかり気配を消すタイプだから営業時間中でないと」という話。
午前中、再度。わき道にそれた、ぷあんのある路地へ。
出てる!看板!本当にぷあんの真ん前!
定規を使ったかのカクカクしたフォント、珈琲の隣「ノ店」に店主の小さなこだわりを感じる。
こちらもまた控えめな小さな看板には、『クッキングパパ』の顎みたいなフォントで「珈琲プロティア」。
にしても入りにくいなあ……。この生気のなさ。
が、躊躇ってばかりいては先に進まない。思い切って扉を開けた。
うなぎの寝床のように細長いカウンターがあり、その奥の壁にはインパラのレリーフ。
スッキリしすぎるほどスッキリした内装。無駄なものが極限まで削ぎ落とされているように見える。が、一筋キラリと光るものあり。阿佐ヶ谷の「珈司」をさらに精鋭化した感じ。
これまで自覚はなかったが、こういう「削ぎ落とし系」も好きかもしれない。相当に。
カウンターとは別に、小さなおこもり感のある窓際テーブル席。
他のお客さんがいたら窮屈な気もするが、この寄せ付けないオーラを破って入ってくる一見客もそうはいないと思われ…。実質貸切確定(笑)。
外からはうかがい知ることのできないミステリアスな窓は、絶妙な明り取りの役割を果たしている。
壁には抽象画。
「ブレンドでよろしいですか?」
店同様スッキリした姿の良い男性より、ソフトな口調で言われた。
看板に掲げる「珈琲ノ店」の真意をここで知る。ここではクリームソーダだの、レスカだの、ナポリタンだの、パンケーキだの、そんな邪念が入り込む余地はない。ある意味ストイックで潔い純喫茶である。
ただね、時間は半端だけど、モーニングセット的なのないかしら? トーストみたいな、と思い、「トーストも?」と訊くと、「はい、トーストですね」。
ああ、トーストはあるのね。
トーストを作りにカウンターの奥に男性は消えた。その間、読みかけの本、何故か『シャイニング』を読みながら待った。BGMはJ-WAVE。
灰皿の中にはKENTのライター。
コーヒーはサイフォンで淹れてるっぽかった(多分)。さらりとした味。
シュガーの蓋を開けてくれ、トーストも一緒にテーブルに並んだ。
やや厚めのパンを短冊切に3等分にした形で供された。
手に取るとこんな感じ。一口大に切込みが入っており、パンにはバターがじっくり染み込んでいる。
これが、とても美味しい!!! 喫茶店のバタートーストは単純なものとはいえ、店ごとに随分と違う。コーヒーの味も大切だが、それに劣らずお供のトーストもまた大切。
時間が11時を回っていたし、モーニングの案内もなかったので、コーヒーとトーストはそれぞれ単品だとして700円位だろうか、だとしてもこの素敵な時間を過ごせたのだし良しとしよう。カウンターの隅っこで新聞を読んでいるマスターに声かけお会計をすると、
「350円です」
え、えええ~~~!!! 安い!!! ひょっとしたら西荻最安値ではなかろうか。すごい、すごい。
「あのぉ…モーニングって何時までなんですか?」
訊くとモーニングというのは特になく、終日この価格なのだという。内訳は分からないが、コーヒー300円、+50円でトーストといったところだろうか。もちろんトースト単品は無理だと思う。
ここは再訪問確実。また、この路地裏の隠れ家でひとりジメジメとこもりたい。
店名プロティア(protea)の由来について。南アフリカの花だという。そう言われてみると、どこかAfricanな空気だった気もする。
うっかり「ぷあん」の由来は? などと目の前の店と間違えてしまうという失態をおかしてしまい、「プロティアですね」と優しく訂正してくれたマスターに感謝。
エムケイ
ブログを通して多くの方に純喫茶の魅力を伝えていきたいと思っています。
当ブログはリンクフリーです。トップページ、個別ページでもご自由に。
コメント
-
2015/06/19 URL 編集
エムケイ
とてもひっそりしていて入りにくいですが、そこはとても落ち着ける空間です。
2015/06/22 URL 編集
K
2016/03/06 URL 編集
エムケイ
プロティアのご報告を受け、さっそく見に行きました。
まるで喫茶店などそこには元からなかったと思えるほど、あっさりとすっかり無くなっていました。
佇まいもひっそりとしていましたが、こうもひっそり幕を引くとは想像していませんでした。
直接プロティアとは関係ありませんが、通りからわき道へ入る直前の郵便局の隣の建物が真っ黒焦げになって、花が供えてあったのも気になりました。
火事があったのでしょうか。
2016/03/07 URL 編集
K
早速 見に行かれたのですね!
そうなんです。私も火事の翌日に、現場の様子を見に行きがてら プロティアの前を通ったら こちらもなくなっていたので、ダブルの衝撃でした。
火事のあった建物も 木造の古き良き建物だっただけに 焼けてしまったのですが とても残念です。
2016/03/10 URL 編集
エムケイ
あれから火事について調べたところ、かなり大きなものだったようですね。
延焼したとの記述もあり、もしやプロティアもその被害で?と思いましたが、その手前の建物がまったく無事なので、これは偶然でしょうね。
とても残念です。
2016/03/11 URL 編集