強者揃いの和歌山だが、今回はその中でも、ひときわ華のある純喫茶をレポートする。
「純喫茶 ヒスイ」。贅を尽くしたゴージャス空間で、中世ヨーロッパの宮殿のようであった。
東京で互角に渡りあえるのは、もはや「高級喫茶 古城」ぐらいだろうか。
和歌山県和歌山市中ノ店南ノ丁9
「Coffee 浜」のマスターが外まで見送ってくれ、ヒスイまでの道案内をしてくれた。ものすごく近い。
人の歩いている数とは不釣り合いなほど純喫茶は多い。
ただ、昔はこの狭いエリアだけでも7・8軒あり、大分減ったのだという。これも浜のマスターから聞いた話。
ヒスイは宝石の翡翠ですね。
なお、こちらの「純喫茶 ヒスイ」と京都の「純喫茶 翡翠」は、山之内遼さんの著書『47都道府県の純喫茶』にも掲載されている。純喫茶ファンにとって必携の書である。
表には黒板にてランチの案内。ここだけ切り取るとチープで、一瞬だけゴージャス純喫茶であることを忘れてしまう。お腹が空いてきたので、ランチすることに決めた。
2階に続く階段があったが、準備中の札。
高齢のマダムが出てきたので、念のために聞いてみたが、現在は使っていない、とのこと。
だが2階には行けないが、
1・2階は吹き抜け! 高い天井から、大きなシャンデリア。
おおおお…。頭の中で、厳かにパイプオルガンの音が響き渡った。
※現実はゆるいイージーリスニング
ステンドグラス。
半地下席あり。
高低差に身悶え。
客席には、男性1人。多分、マスター。他はすべて空席。なんて贅沢な空間の使い方。
ヒスイを丸ごと満喫するには、全体を見渡す席に限る。ひと通り歩き回った挙句、1階の奥の席に。
見上げると、2階が天井桟敷のように見えた。あそこから見下ろす光景はどんなだろう? 残念ながら、想像(妄想)するだけである。
さて、再度、マダム登場。メニューを求めたところ、ないのか?
「本日のランチはミックスサンド、ポークの照り焼き、焼きそば風パスターです」と口頭で伝えられた。
その中だと、焼きそば風パスター(?)かなぁ…。
「では、その焼きそば風パスタというので」
えっえっえっえっ? 頼んだのとは違う…。
が、作り直してもらうのも気がひけ、黙って食べた。耳が遠くなって、聞き間違えたに違いない。
ところが、この後、さらに何かを炒める音が聞こえてきた。
ま、まさか…。そう、そのまさかである。
焼きそば風パスター登場。
ああ、先入観のおそろしいことよ。今日のランチというのは3択ではなく、1択。3品すべて出てくるのだ。
そう、ここは純喫茶。予定調和では終われないのが、純喫茶。予想外のサプライズが用意されている。その飛び道具(?)を楽しみに純喫茶巡りをしているといってもよい。
そして締めは食後のコーヒーと一緒に、デザートのヨーグルト(ブルーベリーソース掛け)。
ここで出てきた品を整理しよう。
料金は750円(税込)。破格にもほどがある。採算度外視?
正直なところ、それほど美味しいというわけでもなかったが、純な心意気を受け止め、残さず全部食べた。さすがにお腹いっぱいになりすぎて、この日は夕食を抜いた。
行けないのは承知しつつも、まだ見ぬ2階に思いを馳せた。階上へ至る壁には、鏡とゴージャスな文様が等間隔で並んでいる。
手すりの繊細で流麗な細工も見事。うっとり眺めていると、マダムが言った。
「あの賞状は松下電器の創業者から頂いたものなのです」
昔は家電の販売もしていた、とのこと。お店のマッチには、「喫茶部」とわざわざ記載されている。
家電と純喫茶。
高度経済成長期。冷蔵庫、テレビ、洗濯機といった三種の神器が、日本中に急速に普及。日本全体がより大きく上を上を目指す。妥協なきゴージャス純喫茶として、ヒスイが誕生した1964年は、その時代と重なる。
純喫茶 ヒスイ マッチ (2014年)
エムケイ
ブログを通して多くの方に純喫茶の魅力を伝えていきたいと思っています。
当ブログはリンクフリーです。トップページ、個別ページでもご自由に。
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