長年の願望を叶えるべく、茨城県日立市の「純喫茶 ウイーン」に行ってきました。
純喫茶で、ウイーン。鉄板とも言うべき王道のネーミングでありますが、名前に恥じぬ、クラシカルな欧羅巴調。正統派のゴージャス純喫茶でした。
なので、今回は変な突っ込みはやめ、できるだけ静かに、淡々と語っていきます。
茨城県日立市神峰町1-10-26
この日は朝から大雨。足元も悪く、動きにくいので、できたら別の日にしたかったが、純喫茶というものは行けるとき行かないと、永遠にその機会を失います。
思い切って、上野から特急「スーパーひたち」に乗車。乗ってしまえば、こっちのもん。90分後、日立駅到着。
平和通りをまっすぐ、そのまま、ひたすら、まっすぐ歩けば、純喫茶ウィーン。
あ!あれか!遠くから電気が付いてるのを見、思わずガッツポーズ。
実を言うと、ここに来るまで一抹の不安があった。臨時休業してたら? 純喫茶には、本当によくあることなんです。事前に電話確認すればいいだけの話なんですが、ガッカリしてもいい、徒労に終わってもいい、できるだけ、ぶっつけ本番で出会いたいのです。
ロマンってやつ?
外観はちょっとニセモノ臭い、なんて言ったら失礼かしら?(^_^; 一歩間違うとラブホテルっぽくもあるけど、それこそが昭和純喫茶の証。隠しても隠しきれない、一級品のオーラが滲み出しております。
向かって右に、飾り窓らしきものが2つ並ぶ。
1つは食品サンプルケース。パッフェやプリンアラモード、そして、純喫茶アートの代表格とも呼ぶべき、フォークが宙を舞うナポリタン。
これを見て、ナポリタンに激しく心が動きました。
漆黒のドアは、一見客の来訪を拒絶しているようにも見える。
ですが、ひとたび扉を開ければ、ウィーンの世界。
1・2階吹き抜けの天井から垂れ下がる2連の大きなシャンデリア。ピカピカでないのが、かえって、アンティークな魅力を醸し出しております。
感動に打ち震えながら、2階への階段をゆっくりと一歩一歩踏みしめて上ります。
とにかく広い。
フロアの真ん中は、「花道」みたく開けています。
そして、椅子。1個1個が幅をきかせ、重役が座りそうな、デーンとした革張りの重厚な椅子が並んでいた。
先客は1名だけだったので、それこそ席選びたい放題。こんなときこそ座っちゃえよ!と天から声がするのですが、気恥ずかしさもあり、なんとなく座れませんでした。
とりあえず一周した挙句、人目につかない、壁際の隠れた席に座ることにしました。背もたれに白いカバーのかかった、名曲喫茶的な、一般的な椅子に。
壁もゴージャス! ペルシャ絨毯みたいな模様が入っている。思わず手で触ってみたところ、弾力がありました。
青い窓が神秘的。バックライトで発光しているようですが、その向こうに宇宙の広がりを感じた。
メニューをもらうが、食事系が豊富で迷う、迷う。
手書きのイラストが劇画調。特に目を惹くのはフォークに絡んだナポリタン。垂れ下がっているスパゲッティが絡んでいたり、いちいち芸が細かい。
ナポリタンかなぁ…と思いかけたところで、ハッと我にかえった。
ダメダメダメ! 何年間も、行ったら、これ!と決めていたのがあるのです。
プリン・ア・ラ・モード。
もうビジュアルからして100点満点でしょ? 脚付きの横長のガラス器。プリンもレトロ。ホイップクリームには、真っ赤なサクランボが乗っています。完璧。理想の純喫茶のプリンアラモード。
お店の方に伺ったところ、プリンは自家製。とろりとかかったチョコレートソースも自家製だとのこと。
まずは、プリンにスプーンをいれる。
すっご! 固い。昭和レトロのプリンはたしかに固いけど、これは私が食べたプリンの中でも抜群に固い。しかも、上に掛かった黒いのはカラメル?
私の知ってるカラメルは、底に滴り落ちる汁状なのだが、これは水気が少なく粘っこい。ですが、これが、固いプリンとうまく絡んで、絶妙に美味しい。これは大当たり!
Oh! wien!
半分くらい食べたところで、高齢のマダムがコーヒーを持ってきました。
このカップ&ソーサーはナルミ ボーンチャイナでは? 私が以前たまに行ってた喫茶店のと、同じだ!!!
何度もこのカップでコーヒーを飲んだんだった。ひとり、物思いに耽っていると…
「もしかして、早すぎたかしら?」
いえいえいえいえー!そういう意味じゃなくて、ああ、もう、私ったら! なに勝手にひとり黄昏たりして。それをここで言うのもあれなので、空気を変えるために思わず口をついたのが、「あの、マッチありますか?」
「はい、ございますよ」
マッチと共に供されたのは、なんと!純喫茶ウイーンの店名入り灰皿。
当然、伝票も店名入り。
何から何まで期待通りで、正統派純喫茶の醍醐味を感じました。
ところで、何か忘れている。何?何?何を? うーん。うーん。
そうだ!音楽!このブログを読んでいる方は、想像を膨らませていると思いますが、喫茶店において、音楽って重要だと思いません?
ここウイーンは店名から受けるイメージ通りクラシックの名曲が流れている。それも、一度はどこかで聞いたことのあるような、ポピュラーなものばかり。私は名曲喫茶は好きですが、あまり知らない曲よりは、馴染みのある曲を流す店が好きです。そのへんは半端にメジャー志向でもあります。
そして、その馴染みのある名曲の中でも、特に好きな曲が流れました。ヨハン・シュトラウスの『美しき青きドナウ』。この曲は映画マニアの方ならご存知。スタンリー・キューブリック監督代表作『2001年宇宙の旅』でも使われていて、音楽を聴きながら、しばし宇宙空間を瞑想しました。
もう少し大きな音量ならば、茨城県を代表する名曲喫茶とも言えるでしょう。ですが、会話を邪魔しない程度の音量。会合や打ち合わせにちょうど良さそうです。
うっとりとクラシックの名曲を聴いていると、外の雨の降る音、車の走る音が混じるのですが、ときおり、お店の人とやり取りするお客さんらしき声が聞こえてきます。「…お気をつけてお持ち帰りください」
覚えてますか? 食品サンプルケースの隣、もう1つの小窓。こっちで、外売りソフトクリームもやっているのです。雨にも関わらず、人気なのか、ちょくちょく買いに来ます。一見敷居が高く見える外観でありますが、庶民的にソフトクリーム。ここでソフトクリームを買ってもらった子供がいつか大人になったら、ウイーンに入るんでしょうね。
現在は2階席のみですが、以前は半地下席も使っていたそうです。お会計カウンターの奥には、たくさんのLPレコードが並んでいました。
かつては栄華を誇ったであろう、純喫茶ウイーン。上野界隈のゴージャス純喫茶に一歩もひけをとらない、極上の純喫茶でした。紛うことなき純喫茶遺産。日立市の至宝と呼ぶべきでしょう。
純喫茶 ウイーン マッチ (2013年)
エムケイ
ブログを通して多くの方に純喫茶の魅力を伝えていきたいと思っています。
当ブログはリンクフリーです。トップページ、個別ページでもご自由に。
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