外観よし、内装よし、人よし。
私はとりわけ渋い店を好むが、そんな個人的嗜好にもうまくハマったのが、こちらの「純喫茶 甍(いらか)」。
岐阜県岐阜市長住町6-4
岐阜はどちらかとマイナー県だが、こと純喫茶に関しては大国である。
県庁所在地の岐阜は名古屋からJR東海道本線で約20分、そこから12分ほどで大垣。この2市を急ぎ足で1日で回った。
その中で一番心に響いた珠玉の純喫茶へとご案内する。
ファザードが素晴らしい。甍が飛び出ているのも凄い。
石で囲んだ水場などもあり、小さな和風庭園が形成されていた。
この看板も上級者。上が大きく余白、敢えて下だけに店名という大胆な構図。
入口にしめ飾り。厳かな気持ちになり、背筋がピシッとする。
ところで「甍(いらか)」ってどういう意味なんだろうか? 天平の甍なんてあったけど・・・。
ドアを開けるとカランコロンと爽やかな音。
和というか東洋的な渋い趣。重厚な雰囲気。
ここは外観からして相当期待値は高かったが、中も裏切ることなく素晴らしい。変な客は軽々しく入ってこなさそう。
平日の日中だったため、スーツ姿の男性客が目立った。
真っ先に視線が吸い寄せられるのが、奥の壁。秋色の渋いモザイク模様で、こちらもまた甍が浮き出ている。
店内は全体的に薄暗く、ひんやりした印象。シャンデリアのような華々しい照明はないが、入口、カウンター、壁の照明のひとつひとつが主張せず控えめに店内を照らしていた。
お客さんが少なくなってから店内をじっくり観察したが、随所に細工が凝っていた。パッと見綺麗だが実は安普請というイマドキの店とは真逆。
網目模様の金属パーテーション越しの光景も雰囲気があった。
ただ新聞・雑誌置場が家庭で使うようなカラーボックスだったのは見逃さず。隙がなさそうに見せかけて庶民性が垣間見えるのもまた純喫茶である。
さらにBGMもまた庶民的であった。テレビが付いており実用的なニュース、それともワイドショーだったか? 個人的にはこの内装ならクラシック音楽もしくはイージーリスニングを流してほしい。とはいえ、これは岐阜県の地域性かもしれない。他の純喫茶もテレビが多かった。
メニューはなく、ママさんから口頭で伝えられた。これは岐阜限定ではないが。地域を問わず全国で見られる『純喫茶あるある』である。
周りのお客さんを見回すと定食を食べてる方もいらしたので、決してメニューが少ないというわけでもなさそう。きっとメニューを熟知した常連さんが多いのだろう。
ミックスジュース。桃っぽい味がした。
忘れてはいけないのは、これ! 喫茶店のおつまみ。小袋入りの豆菓子だが、岐阜県内の喫茶店でかなりの確率で出てくる。全部持ち帰ったが、1日終わる頃には結構な量。夜はホテルでこれをつまみにビールを飲んだ(実話)。
入ったときはそれなりに席が埋まっており、あまり店内の撮影はできそうになかったが、一気にバタバタとお会計をし、ガランとしたタイミングでママさんに声をかけ撮影をさせていただいた。
大変気さくな方で帰ったばかりのテーブルに残ったコーヒーカップ、湯呑等写真に撮らせて欲しいという願い出にも快諾してくださった。その上「こんなのもあります」と店名入りのお皿まで出してくれた。
ふりがなが振ってあり大変親切である。
甍の左隣にある三本線は家紋。
どんな店でも良いところはある。それを探すのも幸せ力なのかもしれないが、それは本当に私が望んでいることか?
そんなのは東京近郊だけで充分。旅先ではもっと傲慢になりたい。こんなのも?あんなのも?えー?すごい?心の底から純喫茶を堪能したい。純喫茶探訪者としてはそこを目指したい。純喫茶甍はそんな願望を叶えてくれる数少ない店である。
エムケイ
ブログを通して多くの方に純喫茶の魅力を伝えていきたいと思っています。
当ブログはリンクフリーです。トップページ、個別ページでもご自由に。
コメント
甍の娘
何気なく検索して、実家が紹介されていてびっくりしました。
私にとっては当たり前の空間ですが、どなたかにとって心地よく、新鮮な喜びを与えられていると知ることができるのは、とても嬉しく思います。
私も昭和の雰囲気を残す場所が好きで、廃墟や遊郭跡などにも興味ありますので、実家もこのまま誰かにとっての心落ち着く昭和の空間であってほしいと思います。
小さい頃は店内で有線をかけておりましたが、安くないのとあまり需要なさそうなので止めたんだと思います。
あと、テレビのほうがお昼を食べに来る常連さんたちにとって、ちょうどよいBGMになるようです。
何はともあれ、すごく褒めて書いてくださっていてとても嬉しいです。
ありがとうございました。
2016/03/25 URL 編集
エムケイ
関係者の方に見ていただき大変嬉しく思います。
もう一度自分の書いた文章を読みましたが、かなり高ぶった興奮が伝わってきます(^^;
本当に素敵なお店でした。
BGMについても書き込んでいただいてありがとうございます。
元は有線だったんですね。
お客さんの一番居心地の良いものということでテレビになったのですね。
勝手な想像ですが、自宅のように寛げるというのもあるかもしれませんね。
ママさんにもよろしくお伝えください。
2016/03/29 URL 編集
元従業員
40数年前このお店にお世話になった者です。
写真を拝見して外観も内装も変わっていないことに驚いています。
雰囲気からメニューやうつわも変わってないのでしょうね。
その頃は店の中に小さな水槽があり1週間に1度水替えしたことを思い出します。
コーヒーの出前が主でしたが、朝、昼、夕と常連客が気軽に立ち寄っていたようです。
昭和から平成へ半世紀も同じ佇まいはタイムスリップしたような懐かしい気持ちになります。
この先同じスタンスでいつまでも続けていただくようお願い致します。
管理人様の記事の感想でなく申し訳けありません、
2016/08/19 URL 編集
エムケイ
その頃から外観と内装が変わっていない、とのこと。
その当時を知る方から懐かしんでいただけるとは光栄です。
40年も経つと大きく変わってしまう喫茶店がほとんどなので、変わらないということはそれだけで大きな財産であります。
店内に水槽があったのですね。
表に水場のようなものがあったので、想像できます。
とても素敵な純喫茶でした。
2016/08/21 URL 編集
甍の娘
以前コメントさせていただきました、この喫茶店の娘です。
この年末年始に実家に帰りましたところ、小冊子届いておりました。
母が、お礼をしたいけど住所など記載がなく、私ならわかるのではないかということでしたので、この場でお礼を申し上げます。
2017/01/12 URL 編集
エムケイ
小冊子の件、送るとき住所を書かないのは失礼だとは思ったのですが、色々考えて、書かないことを選びました。
小冊子を作ろうと思ったきっかけは昨年関西で訪れた喫茶店にあります。
ブログに紹介されていることを人に教えられて、その記事をカラーコピーして、嬉しそうに見せてくれたからです。
ネットを普段見ない純喫茶の店主はとても多いので、思いが伝わり大変嬉しく思います。
ごく少部数ですが、プライベートで何人かの喫茶好きの人に同じ小冊子を渡しているので、いつかは小冊子を持ってお店を訪問される日が来るよう祈ってます。
お母さまにもよろしくお伝えください。
2017/01/12 URL 編集
有限会社コトブキ
岐阜県岐阜市金町2―16
大熊ビル2階
フルーツサンドが人気のパーラーおおくまですが、6月30日で40年の歴史に幕を閉じます。
人の主観や客観的な見解で純喫茶と見なしませんが、当方は純喫茶だと思ってます。
もし期日迄に行く機会があるならば、管理人様も行ってみて下さい。
系列店である1階の大熊果実店は営業を継続するらしいです。
2020/06/10 URL 編集
エムケイ
存在は知ってましたが、機会がなく行けずでした。
6月末で閉店なんですね。
科学的根拠はないのですが、気分的に新幹線や飛行機、高速バスなどでの長距離移動はまだ気が進まないので、今月中は行けそうにありません。
でも教えてくださってありがとうございます。
純喫茶か否か。
私も結構いい加減です。単純に面白くて、ワクワクできて、純喫茶っぽいものは純喫茶として扱ってます。
2020/06/10 URL 編集