押しても駄目なら引いてみろ。開かない扉の鉄則である。
では、押しても開かない、引いても開かない場合はどうする? 押、引、押、引。真夏の朝の浅草橋。ドアノブつかんでガタガタガタガタ。
これが「喫茶 瀬羅夢」との印象的な初対面だった。
東京都台東区浅草橋4丁目9-9
※2015年11月閉店
「あ~ら! 開かないのね?」
騒ぎを聞きつけ(?)、中から人が駆け寄り開けてくれた。頭に赤いバンダナを巻いたショートカットの女性。喫茶瀬羅夢のママだった。
「うちのドア、暑くなると開かなくなっちゃうの」
ハツラツとした口調でカラカラと笑う。とても気持ちの良い、明るい方。
土曜日だからか、他にお客さんはなく、席選びたい放題。窓際の、あまり陽がささない奥に座り、モーニングを注文した。
「今日は少ないけど、良かったら好きなだけ食べてくださいね」
カウンターにはおかずが並んでいる。食べ放題のビュッフェスタイル! ホテルじゃなくて、ファミレスでもなくて、純喫茶でビュッフェ。なんて斬新。
一品づつ皿に盛る。卵焼き、ソーセージ、トマト、里芋、ブロッコリ、レタス、茄子の煮浸し。カップのヨーグルトと納豆。栄養満点。しかも、いちいち家庭的な味で美味しいから箸が進む、進む。アイスコーヒーをお願いした。
and 炭水化物。
トースト。食べやすく4分の1サイズにカット。
中身はハム or バター or ジャム、どれにするか訊かれ、ジャムにしてもらった。至れり尽くせりだ。
そして、すっごく美味しい。これって、もしやペリカンのパン? 先日の「Smell」がそうだったし、その辺ぶらついてたら煙草屋でもペリカンのパンを売ってた。この美味しさはきっとペリカンだと思い、溌剌ママさんに問いかけたところ、
「ヤマザキのパンよ」
な、なんと! ヤマザキとは……。ヤマザキでもこれだけ美味しいトーストになるのか。焼き加減だろうか。
その上、「暑いけど、卵スープはいかが?」
もうお腹は一杯になりかけてたが、こうなったら昼食兼ねていっちゃおう!
てっきり出来合いのものかと思いきや、卵を溶くところから開始。味噌仕立ての出汁をしっかりとったもの。赤いのはカニカマ。嬉しいことにカイワレ大根まで。私がスープを作るとき、仕上げのカイワレを欠かさない。見た目もだけど、ピリッとした辛み、シャキシャキした歯ごたえ。これがあるかなしかで、結構変わるのだ。分かってるなあ、ママさん。
お会計の段になり、さらにビックリ! 350円。ちょっとちょっと!!! それじゃ、原価割れだよ。
あまりに安くて思わず「安いですね~」と感想を漏らしたところ、「モーニングだから。それに今日は土曜日で、いつもより品数少なくて申し訳ないわ。平日のランチの3分の1しかないもの」
えーーーー!!! 充分すぎるほど充実してますって。ランチタイムはこの3倍。すごいなぁ……。
あとで純喫茶友達にここでの話をしたところ、ランチは炭水化物系を希望によりハーフ&ハーフにしてくれるとも教えられた。
この場所で、この内容、この美味しさ、この値段。そして、明るく元気なママさん。平日のランチタイムはビジネスマンでいっぱいなんだろうな。
心身共に満たされ、そろそろお会計でもと準備をしていると、外からママさんの声が聞こえてきた。
「水、かけて」
外からドアに向けてホースで水をかけているのだった。そう、入るときドアが開かなかったのは、熱で膨張しているから。水で冷やして縮めようという作戦である。
ちょっとした夏の風物詩だ。
すでに有名らしく、テレビ朝日『ナニコレ珍百景』の取材も来たそうだが、出演はお断りしたとのこと。「恥ずかしいもの」とママ。ちょっと勿体ないが、どうせテレビに出るなら珍百景よりも、ハツラツとしたママのキャラ、ビュッフェ形式の充実モーニング&ランチにフォーカスをあてて欲しい気もする。
そばには祠。再現子育地蔵云々らしい。
瀬川瑛子の瀬に、羅生門の羅、そして夢。セラムと読む。大きな通りからは外れ、ちょっと入り組んだ目立たない場所にあるが、決して後悔はさせないので、ぜひ探してでも行って欲しい。
(撮影:2015年12月)
エムケイ
ブログを通して多くの方に純喫茶の魅力を伝えていきたいと思っています。
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