久しぶりに高田馬場を散策した。
一見すると、あまり変わっていない気がしたが、実際には少しづつ変わっていた。
まず駅前。F・Iビル1階には「ここでもか!」のドン・キホーテ。九十九電機の入っていた頃が懐かしい。早稲田松竹の並びで異彩を放っていた有名廃墟「名曲喫茶らんぶる」は取り壊され、さかえ通りの「純喫茶プランタン」は建物は残っているが、すでに閉店している模様。
このままだと、あの純喫茶もきっと……。雨降る中、諦めにも似た気持ちで、向かうとなんと営業中!
東京都新宿区高田馬場4-17-16
※2015年5月31日閉店
「ピッコロ」
ここは純喫茶巡りを始めて日も浅い頃、「ただひたすら歩き回る作戦」で見つけた純喫茶。
けれど、当時の自分にはとても入る勇気が出なかった。
2階を見上げると、植物で鬱蒼として怪しい「珈琲&スナック」。
当時はスナック(バー)だと思い込み、ただただ指をくわえているしかなかった。あの時の私に教えてあげたい。スナックは軽食の意味だよ。コーヒー&スナックは、普通の喫茶店だよ、と。
近寄ってみれば、ほら。食事メニュー。ポークジンジャー、カレー、エビピラフがある、普通の喫茶店。
んっ!? よく見ると普通でもない? 親子丼? なすバター焼セット?
まあ、いいや。急な階段を上る。
コーヒーカップを象った手作り風の看板が可愛い。
うーん。看板が多い(笑)
ドアを開けて中に入るとカウンター。
床の模様が、かかか、かわいいっっっ!!!
数年来気にかけていた純喫茶だけど、期待裏切らず素敵。ぼーっと突っ立ってると、カウンターでお客さんと楽しそうにお話していたママさんが、パッと外向きの笑顔になり、「いらっしゃいませ。おひとり?」
はい、と答えると、窓際のテーブル席に案内された。
小さなテーブル2つ。それぞれ黒い椅子が1つづつ。すっぽり埋もれるおひとり様専用席。「良かったら、隣の椅子に荷物置いていいわよ」
ありがとうございます!
外から怪しく見えた魅惑の窓際は、内側からはこう見える。ぽってりしたグリーンの庇が雰囲気ある。植物と絡みあって、素敵な眺め。いいね、いいね、この特等席。
メニューは特に手渡されず(笑)。カウンター内にメニューがあるので、それを見て選ぶ。
コーヒー。薔薇の絵の入ったカップが素敵。シュガーポットもお揃い。実を言うと、このトレイに爪楊枝が乗っていたのだが、一旦脇にどけて撮影(笑)
こじんまりした店で、カウンターでママさんとお客さんは盛り上がっていたが、不思議とアウェー感はまったくなく、手持ちの本の世界に没頭できた。
と、いきなり、これまでついていたテレビが消えた。カウンターのお客さんが帰ってしまったのだ。クラシック音楽に変わった。
このタイミングで丁度、本の中で心に響く箇所に当たった。
OUTは、私という作家をブレイクさせてくれた作品だが、同時に私をOUTな作家にしてくれたらしい。それは、決して王道を行けない奇妙な小説家としての道でもある。(中略)誰も味方はいない、一人でやるしかない、というあの思い。だが、孤独は作家を鍛える。再び、同じ思いをして自分を鍛えたい、と最近思うのである。
言葉を噛みしめながら手帳に書き写してから本を閉じた。そろそろ出ようかと帰り支度を始めたところ、ママさんから「この辺の方?」と声をかけられた。
やはり見知らぬ一人客(それも女)は珍しいのだろうか?
「そうでもないわよ。結構、女性一人で入ってくる方多いのよ」
えっ! 女性一人客?
自分も人の事を言えないが、チャレンジャーな彼女たちだ。失礼ながら、魅惑的ではあるが、なかなか入りにくい外観。よく入ったなぁ…。率直な感想。
「そろそろ肥料をあげないとね」
鉢植えに肥料の粒を与えながら、植物について話してくれたが、思わず見失いそうに。ママの着ているニットは、目の覚める鮮やかなグリーン。周りに溶け込む保護色だったのだ。グリーンお好きなんですね。
まあ、それはよしとして(笑)
植物の名前はカッポレだったか、カップレ、だったか、そのような名前。手すりにタグが付いていた。もう30年にもなり、時折枝葉を切らないと、丈夫で育って育って仕方ないのだとか。よく見ると小さな鉢から根がはみ出て苦しそう(笑)。
「でも、これが客寄せにもなるのよね」嬉しそうに言う。
「喫茶店というのは、常連客だけじゃなく、フリのお客さんも大切なのよ」
ハッとした。純喫茶には商売っ気はなく、どこか浮世離れした道楽だと思い込んでいたのだ。これまで来てくれる 馴染みのお客さんを中心に現状維持なのかと。思えば、この高田馬場は学生街。新陳代謝の激しい街でもある。
さらに、こちらは高田馬場の喫茶店には珍しく日曜日も営業している。それについても、「世間が休むときに仕事をする。人と同じことをしてちゃダメなのよ。」
リアルな言葉として心に響いた。
2015年5月31日閉店
珈琲&スナック ピッコロ マッチ (2014年)
エムケイ
ブログを通して多くの方に純喫茶の魅力を伝えていきたいと思っています。
当ブログはリンクフリーです。トップページ、個別ページでもご自由に。
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