生かすも殺すも店主次第。
なんとも物騒な出だしだが、これから書くのは「生かす」のケースなのでご心配なく。
清瀬にある「コーヒーハウス チロル」の話。
東京都清瀬市松山1-17-8
当ブログに相応しい、わき道にそれて純喫茶。
この角を曲がると、界隈はスナックが林立している。
チロル。店名フェチな私にとっては、たまらんネーミング。期待高まる。
思った通り! やったね!
チロルは珠玉。チロルは裏切らない。美しき内装の正統派喫茶。そこかしこに花が飾ってある。大きな花瓶には、明るく華やかな向日葵の花。テーブルにはトルコ桔梗。女性ならではの心遣いが感じられる。
クラシック音楽が流れていた。
先客ゼロ。席は選びたい放題。となると、選ぶ席は全体を俯瞰できる奥の席一択だ。
看板にも書かれていた「水出しコーヒー」は、文字通り看板メニュー。8時間かけて抽出しているとの説明が付いていた。なら、ノッてみよう。即、注文。
だが、品の良いマダムに戸惑いの表情が浮かぶ。
水出コーヒーはすぐに作れないので、数量に限りがある。この日は日中団体さんが大量に注文し、残り僅かになってしまったのだ。なるほどそういうことか。
「ギリギリ1杯取れるかどうか…。確かめてきます」
イケるか、ダメか? 緊張の一瞬。
「大丈夫です! なんとか1杯取れました」。カウンターの向こうからグラスを持ち上げるマダム。
「混ぜないで飲んでください」
上にクリームが浮かび、2層になっている。
味はすっごくクリア。雑味が一切ない。さすが看板メニュー。
さて、生かすも殺すも店主次第。これから、その話をしよう。(もうすっかり忘れてるでしょ?)
この店を始めてから16年なのだという。えっ?16年? 16年続けるのは確かに凄いことだ。けど、この地域に根差してる感、年季の入り具合はどう少なく見積もっても30年以上に見えるが…?
居抜きである。
お客として通っていた喫茶店が閉店すると知り、居抜きで入ったのだという。失うには惜しい、なんとか生かせないかと。
素晴らしい。私にはとても真似できない。たしかに素敵な喫茶店が閉店すると知れば、なんとか残すことはできないか、どなたかに引き継げないかと思う。ただ、それはあくまでも他力本願。実際に自分は当事者ではない。結局は指をくわえ、安全圏から高みの見物をするだけである。
そんなマダムは別の顔も持っていた。お茶とお花の先生という2つの肩書。いわゆる「できる女」なのだ。
店はアルバイトの女性数人とローテーションで運営している。
さらにビジネスとしては厳しい喫茶店をいかに成り立たせるかについても、きちんとした考えを持っていた。すごい女性である。
最後に1つ。マダムの「できる女」エピソードを。
壁には雰囲気のある銅板レリーフが埋め込まれている。荷車でコーヒー豆を運ぶ、いかにも純喫茶らしい絵。
今でこそその美しさで目を惹くが、引き継いだ時は年月の経過で真っ黒になっており、汚れを洗剤でふき取ったところ、キンキラキンになってしまったらしい。キンキラキン? キラキラして綺麗では、ないか(^^; ああ、そうか。真っ白けの姫路城状態になったんだろうね。仕方なくマダムが彩色を施したのだという。
東急ハンズで何色か購入し、それを丁度良い色合いに混ぜながら、色を付けていったらしい。お花の先生だけに、色彩感覚が優れているのでしょうね。素晴らしい出来栄え。言われなければ、後から色を付けたなど少しも分からなかった。
喫茶店は店主の個性の塊だが、元からあるものをどう生かすか? その手腕も個性。生かすも殺すも店主次第である。
いつの日かお腹をペコペコに空かせて、もうひとつの看板メニュー・自家製カレーを食べに来たい。カレー好きな方、ぜひご一緒しましょう。
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